皆さんは、光村図書の中学校3年生の国語教科書に「月の起源を探る」という教材が掲載されているのをご存知ですか? これは月が誕生した過程を題材とした説明的文章の教材です。私も、これまで理系学部で学んできた経験を生かして、今までの教科書とは違う教材の提案ができれば、きっとおもしろい教科書作りができるだろうと思い、光村図書への入社を決めました。全く異なる世界に挑戦してみたいという気持ちも入社の動機になりました。
小学校・中学校の国語科書写と高等学校の芸術科書道の教科書編集が私の仕事です。教科書の改訂は4年に1度行われますが、改訂の時期は小中高それぞれ1年ずつずれているので、書道課ではほぼ毎年教科書作りを行っています。その他にも学習指導書や宣伝資料の作成も行っています。教科書編集では、まず課員全員で教科書の基本方針を話し合い、新規企画やデザインなどを決定します。そこから、現場の先生方の意見などを参考にしつつ、現行版の教科書がよりよくなるような案を考えていきます。私の場合、まだ書写や書道の知識が豊富ではないため、子どもたちと同じ視点を求められることもあります。一見して「楽しそう」とか「難しそう」といったシンプルな気づきが、教科書にとって大事なポイントでもあるのです。
高校の教科書の紙面案を作成し、先輩に見せた際に、「これは小学校の紙面だよ」と言われてしまったことがありました。教科書は、使う子どもたちの興味を引きつける工夫を随所にするのですが、その工夫のしかたが校種に応じて違います。高校では、芸術としての書の美しさをわかりやすく伝えることに重きを置いていますが、小学校では扱う題材やキャラクターを工夫して、書写に親しみを感じてもらうことが必要になります。そのため紙面の雰囲気は大きく異なります。このように、編集作業では教科書を使う子どもたちの目線に立って、彼らの成長段階や教科の目的に合った紙面作りをしなければならない難しさがあります。
教科書の紙面を練るための編集会議では、今使われている紙面の改善案を提示し、編集委員の先生に意見を求める場面があります。先生は書道を専門としているため豊富な知識をもっていますが、その情報を編集に活用するためには、紙面をどうしたいのかというイメージを編集部員が明確にもっていることが重要です。しかし、相手は書道の大家ですから、ときに自分の意見に自信がもてずに気圧されてしまうこともあります。そういったプレッシャーに負けず、自分の考えや主張をしっかり伝え、意味のある編集会議を進行していくというのが直近の目標です。この目標を達成するためにも、教科書作りにおける自分なりの「信念」のようなものをもてるよう、日々経験を積んでいます。
授業見学に参加したことがあります。授業では、子どもたちが光村図書の教科書を使っていました。実際に現場を見ると、もっとわかりやすくて使いやすい教科書を作りたいという強い思いが芽生えます。文字を書くことは、人とつながることであり、考えを述べることでもあります。字がうまく書けないことを理由に、書くことを嫌いになってしまうのは悲しいことです。子どもたちに、少しでも自分の字を好きになってもらえるよう、よりよい教科書を作りたいと思っています。
9:00
出社。まだ人が少なく静かな社内で、教科書の紙面案を検討。
11:00
教科書や教材についてのお問い合わせに対応。
12:00
手作りしたお弁当を食べる。
13:00
課内会議。自分が担当する紙面について先輩に相談。
15:00
指導書やワークシートなどの編集作業。
17:30
退社。紙面のアイディアを求め、書店や書の展覧会に寄ることも。